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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)1085号 判決 1985年3月13日

原告 大堀忠志

右訴訟代理人弁護士 時友公孝

被告 鈴木敏之

右訴訟代理人弁護士 松崎保元

主文

一  被告は原告に対し、金五二九一万一〇七〇円及び内金四九四一万一〇七〇円に対する昭和五六年六月二二日から、内金三五〇万円に対する昭和五八年一二月一〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用はこれを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

三  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八七一一万三六五四円及び内金七九一一万三六五四円に対する昭和五六年六月二二日から、内金八〇〇万円に対する昭和五八年一二月一〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、左記の交通事故(以下「本件事故」という。)に遭遇し、傷害を受けた。

(一) 日時 昭和五六年六月二一日午前七時三〇分ころ

(二) 場所 茨城県猿島郡五霞村大字幸主乙八七二番地先の交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 普通貨物自動車(茨四四て一六五七号、以下「加害車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害車 自動二輪車(一大宮い五四一二号、以下「被害車」という。)

右運転者 原告

(五) 態様 加害車が、交通整理の行なわれていない本件交差点を、茨城県猿島郡五霞村江川方面(以下「江川方面」という。)から同村土与部方面(以下「土与部方面」という。)に向けて直進しようとしたところ、折から、右交差点と交わる国道四号線(以下「本件国道」という。)を埼玉県方面から茨城県境町(以下「境町」という。)方面へ向けて直進して来た被害車と右交差点内で衝突したものである。

2  被告の責任

被告は、加害車を運転して、江川方面から土与部方面へ向けて村道(以下「本件村道」という。)を進行していたが、交通整理の行なわれていない本件交差点を直進するにあたり、本件交差点の直前に一時停止の道路標識が設置されているのを認めたのであるから、本件交差点の停止位置で一時停止して本件国道の交通の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件交差点の停止位置で一時停止せず右国道の交通の安全を確認しないまま漫然と、時速約二〇キロメートルで直進進行した過失により、折から、右国道を埼玉県方面から境町方面へ向けて直進して来た原告の運転する被害車に、自車を衝突させて本件事故を惹起させたものである。したがって、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償義務を負う。

3  損害

(一) 原告は、本件事故により、右下腿挫滅切断、左大腿骨々折、左右膝部挫創、左足部挫創、胸部打撲症の傷害を負い、右傷害の治療のため、事故当日の昭和五六年六月二一日から同月二七日までは秋谷病院(埼玉県北葛飾郡幸手町所在)に入院し、同日、埼玉中央病院(浦和市所在)に転院し、同日から昭和五七年一月一三日まで同病院に入院し、その後も通院加療を続けたが、昭和五八年三月一五日から同月二四日まで再度同病院に入院し(両病院の入院日数は合計二一七日間)、退院後は同年五月二四日まで通院加療を受けた。なお、原告には、右下腿部が膝関節から約二〇センチメートルを残して切断される後遺障害が残った。右の受傷及び後遺障害による損害は左記のとおりである。

(二) 治療費 金五五四万八一一四円

原告は、前記の入通院による加療のための治療費として金五五四万八一一四円を支出した。

(三) 義足代 金三〇万八〇〇〇円

原告は、本件事故により負った後遺障害のため義足を必要とし、義足代として金三〇万八〇〇〇円を支出した。

(四) 入院雑費 金二一万七〇〇〇円

原告は、前記のとおり、合計二一七日間入院したが、入院雑費は一日当り金一〇〇〇円が相当であり、合計金二一万七〇〇〇円になる。

1000(円)×217(日)=21万7000円

(五) 入院付添費 金四三万二五〇〇円

原告の入院中、昭和五六年六月二一日から同月二七日まで、原告の母と姉が、同月二八日から同年八月二〇日まで、母のみが、それぞれ、泊り込みで原告に付添い、同月二一日から同年一一月一〇日ころまで、母が、そのころから昭和五七年一月一三日まで、姉が、それぞれ、日中のみ原告に付添った。泊り込みの付添費は一日当り金三五〇〇円が相当であり、日中のみの付添費は一日当り金一五〇〇円が相当であるから、泊り込みで付添いをした昭和五六年六月二一日から同年八月二〇日までの六一日間の付添費は金二一万三五〇〇円となり、日中のみ付添いをした同年八月二一日から昭和五七年一月一三日までの一四六日間の付添費は金二一万九〇〇〇円となる。したがって、入院付添費は合計金四三万二五〇〇円が相当である。

3500(円)×61(日)=21万3500(円)

1500(円)×146(日)=21万9000(円)

21万3500(円)+21万9000(円)=43万2500(円)

(六) 通学のための駐車料 金四〇万円

原告は、前記のとおり、本件事故により右下腿部が膝関節から約二〇センチメートルを残して切断される後遺障害を負ったが、そのため、本件事故後は、復学した東京都内の私立駒込高校への通学に乗用車を使用する必要が生じ、高校の近くの駐車場を賃料毎月金二万五〇〇〇円で賃借りしなければならなかった。そして、原告は、昭和五七年九月分から同五八年一二月分までの駐車場の賃料として合計金四〇万円を支出した。

2万5000(円)×16(月)=40万(円)

(七) 逸失利益 金六六〇一万四一五四円

原告は、前記のとおり、本件事故により右下腿部が膝関節から約二〇センチメートルを残して切断される後遺障害を負ったが、右後遺障害は自動車損害賠償保障法施行令第二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)の第五級第五号に該当するところ、第五級の労働能力喪失率は労働基準監督局長通牒によれば七九パーセントであり、原告は労働能力を七九パーセント喪失したことになる。そして、原告は、昭和三九年五月八日生で、事故時満一七歳の高校二年生であったから(なお、後遺障害の固定日は本件事故当日の昭和五六年六月二一日である。)、満一八歳から満六七歳までの四九年間の稼働可能全期間にわたって右の割合により労働能力を喪失したというべきである。したがって、昭和五六年賃金センサス第一巻第一表、男子労働者、産業計、企業規模計、学歴計、全年齢平均の年間賃金額(賞与も含む)金三六三万三四〇〇円を基礎とし、年五分の割合による中間利息の控除にライプニッツ係数を用いて計算すると、後遺障害による原告の逸失利益の現価は金六六〇一万四一五四円(但し、正しく計算すると363万3400(円)×0.79(労働能力喪失率)×17.304(17歳の者に適用するライプニッツ係数)=4966万9159(円))となる。

(八) 慰謝料 金一二四五万円

(1) 入通院慰謝料 金二〇〇万円

原告は、前記のとおり、本件事故による受傷のため長期にわたる入院(入院日数は合計二一七日間になる。)及び通院による加療を余儀なくされ多大の精神的苦痛を受けたが、これを慰謝するには金二〇〇万円が相当である。

(2) 後遺症慰謝料 金一〇四五万円

原告は、前記のとおり、本件事故により右下腿が膝関節から約二〇センチメートルを残して切断される後遺障害を負ったが、これは等級表第五級第五号に該当する後遺障害であり、これによる精神的苦痛を慰謝するには金九四五万円が相当と考えられるところ、さらに、原告は、今後二ないし三年毎に義足を取換えなければならず、その費用として現在の価額で金一一万五三〇〇円を要するので、将来の義足交換の費用を考慮して慰謝料に金一〇〇万円を加えるのが相当である。

(九) 損害の填補

原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から、前記(二)、(三)の治療費、義足代として合計金五八五万六一一四円の支払を受け、また、被告からは、前記(六)の駐車料として金四〇万円の支払を受けているので、右合計金六二五万六一一四円を前記(二)ないし(八)の損害額から控除する。したがって、本件事故による原告の損害額は金七九一一万三六五四円である。

(一〇) 弁護士費用 金八〇〇万円

原告は、本訴の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任したが、その手数料及び謝金の合計は金八〇〇万円が相当である。

4  結論

よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償金として、金八七一一万三六五四円及び内金七九一一万三六五四円に対する不法行為の後である昭和五六年六月二二日から、内金八〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年一二月一〇日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、(二)、(三)、(六)、(九)の事実は認め、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

本件国道は、本件事故当時、全面開通はされておらず、道路状況を知悉していた者しか利用せず、交通量は極めて少なかった。本件国道の車道幅員は約六・七メートルの片側一車線で、本件村道は幅員約五メートルであり、いずれも道路端まで雑草が繁茂して相互の見通しを妨害していた。

原告は、被害車を運転して、本件国道を埼玉県方面から境町方向へ向けて進行していたが、本件交差点付近に差し掛った際、制限速度の時速五〇キロメートルを超えるかなりの高速のまま直進したため、加害車との衝突回避措置を採ることができず、その結果本件事故が発生したものである。したがって、原告にも、加害車の動静注視義務違反、制限速度違反の過失があり、これが本件事故の一因をなしていると認められるから、過失相殺がなされるべきである。なお、過失相殺の算定にあたっては、公平の原則に照らして、後記2の被告の弁済既払額も被告の全損害額に算入し、これを過失相殺の対象とすべきである。

2  弁済

被告は、原告が自認する通学のための駐車料金四〇万円のほかにも、左記の合計金六一万三五九〇円を損害金の一部として原告に支払っており、右既払額も慰謝料に充当される弁済として損害額から控除されるべきである。なお、弁済として認められないとしても、少くとも慰謝料算定事由として斟酌されるべきである。

(一) 文書料 金五〇〇円

(二) 見舞のための金品 金一四万三〇九〇円

被告は、原告の入通院時に、見舞金三万円及び見舞品(金一一万三〇九〇円相当)を原告に贈った。

(三) 本件事故による原告の物的損害 金四七万円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実のうち、(二)、(三)の事実は認め、(一)の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2の事実について判断する。

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

1  本件交差点は、そのほぼ南東(埼玉県方面)から北西(境町方面)に向けて走る本件国道と、ほぼ北東(江川方面)から南西(土与部方面)に走る本件村道がほぼ直角に交差する十字路交差点であり、信号機による交通整理は行なわれていない。本件国道は、歩車道の区分はなく、幅員約八・四メートルで、アスファルト舗装がなされた平坦な道路であり、本件村道は、歩車道の区分はなく、幅員は約四・六メートルで、アスファルト舗装がなされた平坦な道路であるが、右交差点手前から交差点に向けてやや上り坂になっている。本件事故当時、右各道路はいずれも乾燥していた。なお、本件交差点の境町方面側の国道上には、横断歩道と歩行者用の押ボタン式信号機が設置されている。

2  本件国道は、直線道路で路上に放置物件はなく前方の見通しは良好である。そして、右国道を埼玉県方面から境町方面へ向けて進行した場合、右方は道路から一段低くなった空地及び水田であり、本件村道の江川方面は見通しが良好である。また、本件村道を江川方面から土与部方面へ向けて進行した場合、左右に建物等の障害物はなく交差する本件国道の左右の見通しは良好である。

3  本件国道は、茨城県公安委員会の指定により最高速度時速五〇キロメートルの規制がなされており、また、本件村道は、同公安委員会の指定により、本件交差点手前で一時停止の規制がなされている。右村道の江川方面側には、本件交差点手前に一時停止の道路標識が設置され、路面には白色停止線および黄色の「止まれ」の文字がそれぞれ標示されている。

4  被告は、加害車を運転して、本件村道を江川方面から土与部方面に向けて進行していたが、本件交差点の手前約一〇〇メートルの地点に差し掛った際、進行方向左手の本件国道を埼玉県方面から境町方面へ向けて進行して来る被害車を発見した。しかし、被告は、このまま進行すれば、被害者よりも先に本件交差点を渡り切ることができるものと軽信して、そのまま進行を続け、本件交差点の直前に一時停止の道路標識が設置されていることを十分認識しながら、右停止位置で一時停止せず、本件国道の交通の安全を確認しないまま、漫然と速度を時速約二〇キロメートルに落しただけで、本件交差点に直進した。その結果、折から、本件交差点に進行して来た原告運転の被害車に加害車を衝突させ、本件事故が惹起された。

以上の事実が認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。

右の認定事実によれば、本件事故は、被告が、本件交差点の直前に設置されている一時停止の道路標識を十分に認識しながら、本件交差点の停止位置での一時停止を怠り、交差する国道の交通の安全を確認せずに直進進行したために発生したものというべきであるから、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害の賠償をなす義務を負う。

三  次に、損害額について判断する。

《証拠省略》によれば、原告は、本件事故により、右下腿挫滅切断、左大腿骨々折、左右膝部挫創、左足部挫創、胸部打撲症の傷害を負ったこと、原告は、右傷害の治療のため、本件事故当日の昭和五六年六月二一日から同月二七日まで秋谷病院(埼玉県北葛飾郡幸手町所在)に入院し、同日、埼玉中央病院(浦和市所在)に転院し、同日から昭和五七年一月一三日まで同病院に入院し、その後も通院加療を続けたが、同五八年三月一五日から同月二四日まで再度同病院に入院し(入院日数は合計二一七日間に達した。)、その後は、同年五月二四日まで通院加療を続け、ようやく治癒したこと、原告には、本件事故により、右下腿部が膝関節から約二〇センチメートルを残して切断される後遺障害が残ったこと(なお、右後遺障害の固定日は昭和五六年六月二一日である。)、以上の事実が認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。右の認定事実を前提として、以下に損害額を検討する。

1  治療費 金五五四万八一一四円

原告が、前記認定の入通院による加療のための治療費として金五五四万八一一四円を支出したことは当事者間に争いがない。

2  義足代 金三〇万八〇〇〇円

原告が、前記認定の後遺障害のため義足を必要とし、義足代として金三〇万八〇〇〇円を支出したことは当事者間に争いがない。

3  入院雑費 金二一万七〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、入院雑費は一日あたり金一〇〇〇円が相当と認められるところ、前記認定のとおり、原告は合計二一七日間入院しているので、入院雑費として金二一万七〇〇〇円が認められる。

1000(円)×217(日)=21万7000(円)

4  入院付添費 金四〇万二〇〇〇円

《証拠省略》によれば、前記認定の原告の入院期間中、昭和五六年六月二一日から同年八月二〇日まで(六一日間)は、原告の母が泊り込みで原告に付添い、同月二一日から昭和五七年一月三一日まで(一四六日間)は、原告の母と姉(昭和五六年一一月一〇日、原告の母が死亡したので、それ以後は、原告の姉が母に替った。)が、日中のみ原告に付添ったことが認められる。右のように、近親者が付添看護をした場合でも、受傷の部位、程度、入院期間などに照らして、被害者が入院付添を必要とすると認められるときは、相当と認められる金額を、入院付添費として加害者に請求することができると解される。そして、前記認定の原告の受傷の部位、程度、入院期間などに、弁論の全趣旨を加えて判断すると、原告は、前記認定の原告の母と姉が付添にあたった昭和五六年六月二一日から同五七年一月一三日までの入院中の全期間を通じて、付添看護が必要であったと認められ、また、入院付添費として相当な金額は、泊り込みの場合、一日あたり金三〇〇〇円、日中のみの場合は、一日あたり金一五〇〇円と認められる。したがって、原告が被告に請求することのできる入院付添費は合計金四〇万二〇〇〇円となる。

3000(円)×61(日)=18万3000(円)

1500(円)×146(日)=21万9000(円)

18万3000(円)十21万9000(円)=40万2000(円)

5  通学のための駐車料 金四〇万円

原告が、前記認定の後遺障害のため、本件事故後は乗用車で高校に通学する必要が生じ、そのため高校の近くの駐車場を賃借りすることとなり、その賃料として合計金四〇万円を支出したことは当事者間に争いがない。

6  逸失利益 金四四〇一万〇六四七円

原告は、前記認定のとおり、本件事故により、右下腿部が膝関節から約二〇センチメートルを残して切断される後遺障害を負ったが、原告の右の後遺障害は、等級表第五級第五号に該当すると認められる。そして、前記認定のとおり、原告の後遺障害の固定日は、本件事故の当日である昭和五六年六月二一日であること、労働基準監督局長通牒によれば、等級表第五級の労働能力喪失率は七九パーセントであること、《証拠省略》によれば、原告は、昭和三九年五月八日生の健康な男子であり、本件事故当時、満一七歳の高校二年生であったと認められること、以上の諸点を総合考慮すると、原告は、後記の稼働可能の全期間を通じて、労働能力を七〇パーセントの割合で喪失したと認めるのが相当である。

原告は、満一八歳から満六七歳までの四九年間稼働可能と推定されるので、昭和五六年賃金センサス第一巻第一表、男子労働者、産業計、企業規模計、学歴計、全年齢平均の年間平均賃金額(賞与も含む)金三六三万三四〇〇円を基礎とし、年五分の割合による中間の利息の控除にライプニッツ係数(一七歳から六七歳までの五〇年間の係数一八・二五六から一七歳から一八歳までの一年間の係数〇・九五二を差引いた)一七・三〇四を用いて計算すると、原告の後遺障害による逸失利益の現価は、金四四〇一万〇六四七円となる。

363万3400(円)×0.7(労働能力喪失率)×17.304(ライプニッツ係数)=4401万0647(円)

7  慰謝料 金一一〇〇万円

前記認定の本件事故の態様、受傷による加療のための入通院の期間及びその経過、後遺障害の内容及びその程度、本件事故による原告の物的損害に対する弁済として被告が原告に金四七万円を支払ったこと(この事実は当事者間に争いがない。)、その他本件に現れた諸般の事情を総合して考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するには金一一〇〇万円が相当である。

四  被告の過失相殺の抗弁について判断する。

《証拠省略》によれば、原告は、被害車を運転して、本件国道を埼玉県方面から境町方面へ向けて進行していたが、時速約六〇キロメートルで本件交差点付近に差し掛った際、進行方向右手の交差する村道を江川方面から土与部方面に向けて進行して来る加害車を発見したこと、しかし、原告は、前方の本件交差点に設置された歩行者用の押ボタン式の信号機が青色信号を示しているのを確認したので、加害車が本件交差点手前で停止するものと判断し、加害車の動静を注視することなく、また、減速措置を講ずることもなく、そのまま直進したため、本件交差点内で加害車と被害車が衝突し、本件事故が惹起されたこと、以上の事実が認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。

右の認定事実に前記二で認定した事実を総合すると、まず、本件事故は、前記認定のような被告の過失により惹起されたものであり、被告が、本件交差点の手前約一〇〇メートルの位置で、国道を埼玉県方面から境町方面に向けて進行して来る被害車を既に発見していたことを考慮すると、本件事故に占める被告の過失の割合は大きいといわなければならない。しかしながら、原告にも、本件交差点の手前で村道を江川方面から土与部方面に向けて進行して来る加害車を発見しながら、加害車の動静を注視することを怠り(前記認定のとおり、原告から本件村道の江川方面への見通しは良好であり、加害車の動静を注視することは容易であった。)、その結果、減速などの衝突回避措置を講ずることができなかった点で、過失が認められるといわなければならない。以上の諸点を総合考慮すると、前記認定の原告の損害額について一割の過失相殺をするのが相当である。

そうすると、原告の損害額は、結局、金五五六九万七一八四円となる。

五  損害の填補

1  原告が、自賠責保険から金五八五万六一一四円の支払を受けたこと、また、原告が、被告から通学のための駐車料として金四〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。したがって、右の合計金六二五万六一一四円が損害額から控除される。

2  次に、被告は、抗弁として、被告は、原告の自認する通学のための駐車料金四〇万円のほかに、合計金六一万三五九〇円を損害金の一部として原告に支払っているので、右の既払額も慰謝料の一部弁済と認められるべきである旨主張するので、検討する。

被告が、原告に対し、見舞金三万円と見舞品(金一一万三〇九〇円相当)を贈ったこと及び本件事故による原告の物的損害に対する弁済として金四七万円を支払ったことは当事者間に争いがない。右のうち、見舞金三万円については、現金が贈られている点を考慮して、慰謝料の一部弁済と認めるのが相当である。しかしながら、その余の見舞品については、その性質上、社会儀礼上の贈答品とみるべきであり、また、物的損害に対する弁済は慰謝料とは異なる損害費目に対する弁済であって、いずれも、慰謝料の一部弁済とみることは相当でなく、被告の右主張は失当である。

また、文書料の支払については、これを認めるに足りる証拠はなく、被告の右主張は失当である。

3  結局、合計金六二八万六一一四円が填補額として損害額から控除されるべきであり、原告の損害額は金四九四一万一〇七〇円となる。

六  弁護士費用

原告が、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任したことは、当裁判所に顕著なる事実であるが、本件事案の性質、審理の経過、認容額などに照らすと、本件不法行為と相当因果関係ある弁護士費用は金三五〇万円と認めるのが相当である。

七  以上の検討によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、金五二九一万一〇七〇円及び内金四九四一万一〇七〇円に対する昭和五六年六月二二日から、内金三五〇万円に対する昭和五八年一二月一〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、この限度でこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村幸雄 裁判官 河野信夫 田村眞)

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